2018年2月26日月曜日

日本経済最新講義 ロバート・アラン・フェルドマン

2015 株式会社文芸春秋

高度成長期の日本では、終身雇用と年功序列が日本的雇用の特徴であると言われていた。
終身雇用と年功序列はセットになっていて、愛社精神は美徳と見なされていた。
若年齢層が多く高年齢層が少なかったので、会社にとっても労働コストを低くすることができた。
若いころは低い給料でも、後になって給料は上がることになっていた。
その後、日本経済は低成長期に入り、年功序列は会社にとって重荷になっていく。
会社は、コストを減らすため、工場を海外に移転したり、正社員のかわりに派遣社員を使うようになる。
社宅、保養所、病院も売りに出さざるをえなくなる。
正社員の給料も減らし、人員削減もするようになる。
所得が増えず、したがって消費も増えないこともあって、経済の停滞は長引いた。
就職できない新卒者が増え、正社員と非正社員の待遇の格差が耐えられなくなり、「過労死」が社会問題になっている。
政府は、民営化や規制緩和をすれば民間活力を引き出せるのではと考えたが、それでも経済の停滞をぬけだせない。
そこで、いよいよ終身雇用と年功序列に手をつけざるをえなくなってきた。
終身雇用と年功序列は、制度的にも守られているが、政府は「働き方改革」を口にするようになった。
今度は、「同一労働同一賃金」、「適材適所」がスローガンになる。
「同一労働同一賃金」とは、正社員と非正社員の賃金が同じということだとすれば、年功によって高くなっている正社員の賃金が、労働市場での公正価格とされる非正社員の賃金にあわせて低くなる。
さらに、同じ仕事であれば会社ごとの差もなくなるのではないだろうか。
成果主義の賃金体系が導入され、どのような仕事でどのような成果があったのかが評価される。
裁量労働制では、労働時間と給料との結びつきがなくなる。
こうなると、中高年の男性より若い女性のほうが高給という場合もでてくるし、家庭にいた主婦も働きに出なければならなくなる。
退職金や年金の支払額も減ってしまうので、高齢者も働かなければならなくなる。
これが、「女性が輝く社会」、「終身現役社会」、「一億総活躍社会」の内容である。
この結果、効率化や活性化がすすみ、労働生産性が向上して余暇が増えるとか、転職が容易になって会社に囲われていた人材が開放され、まったく新しい産業ができるかもしれない。
一方で、正社員と非正社員の賃金が同じになるなかで、各種手当や賞与が減額されるとか、解雇が容易になって雇用が不安定になるかもしれない。
将来、給料や賃金が上がるかどうかは一概には言えないが、労働人口が減少すれば上がるかもしれない。
ただ、家族を養うという理由で高かった中高年男性の所得は下がることになるだろう。

2018年2月20日火曜日

日本資本主義の正体 中野雅至

2015 幻冬舎新書

資本主義経済では、価格は自由な市場における需要と供給とのバランスによって決まる。
労働の価格である賃金も同様である。仮に賃金が時給1000円だとすると、労働者は、1日8時間、月に20日働けば16万円、1年で192万円の賃金を得る。
資本家は、資金を投入し、労働者を雇用する。事業が失敗したら全責任を負うが、成功すれば利益を手に入れる。
これが続くと、労働者はいつまでたっても富を蓄えることができないが、資本家は富を蓄積する。
マルクス経済学では、これを、労働者が資本家に搾取されていると考えている。
労働者のほうが人数では圧倒的に多いから、組織された労働者階級は革命を起こして資本主義は終焉する。
日本では、政権は選挙により決まるから、革命を起こさなくても、労働者階級の政党である革新政党が選挙で勝ち、政権を取りそうである。ところが、現実には自民党保守政権がずっと続いている。
それはなぜかというと、日本の資本主義は、会社中心でやってきたからである。
上記の同じ労働者が、会社に所属して長く働くとすると、事情が変わってくる。
仕事は同じでも、毎年昇給する。そのほか、各種の手当てが加算され、ボーナスが給料と変わらないくらい支給される。
福利厚生もととのっており、保養所、病院もある。長年勤務すれば多額の退職金が支給される。さらに、退職後も年金が支払われる。
労働者は、会社に所属して働けば、そうでない場合の何倍もの利益を得る。
会社では、社長などの経営者も下から昇進し、労働者に比べて極端に高額の報酬を得ているわけでもない。
本来の資本家である株主には、わずかな配当金しか払わない。
このような場合には、労働者は搾取されているとは思わない。
労働者は会社に保護されていると思い、会社を愛し、会社を誇りに思う。
このような会社中心の資本主義が日本資本主義の特徴である。
一時は、一億総中流とも言われ、自民党は資本家階級の政党ではなく、国民の政党のように振舞っている。
会社中心資本主義の場合、会社にはいれないか、会社からしめだされたらみじめである。
最近、「格差」が問題になっているが、資本家と労働者の間の格差のことだけではない。
会社の正社員と非正社員との待遇の違いや、アルバイトで働く場合とか、労働者間での経済的格差のことを言うことが多い。
会社や役所にはいれないと、大学の奨学金を返すこともできない。
そのため、会社の内部にいるものは、会社にしがみつこうとし、サービス残業でも喜んでする。
会社が苦しくなれば、労働組合は、給与の減額さえ受け入れる。
会社という村社会の一員であることを確認して安心するのである。