2011年1月2日日曜日

波頭亮 成熟日本への進路

―「成長論」から「分配論」へ

2010 株式会社筑摩書房

1957年生まれ

「日本はこれからどの方向に進んでいくのか。政治は迷走し、国民は困惑している。既に成熟フェーズに入った日本は必然的に国家ビジョンを差し替えなければならない。そして、経済政策や政治の仕組みを再構築しなければ、社会は一層暗く沈滞していくだけである。」

日本は成長段階から成熟段階に移ったために、従来型の国家ヴィジョンとその実現のための方法論は無効になった。
それにもかかわらず、新しいヴィジョンが示されていないために、政策は迷走し、国民は将来に向けての見通しが立たず、不安ばかりが増大している。

今の日本が最も必要としているのは、成熟段階にあって国民が豊かで幸せな生活を送ることができるような社会のしくみと運営のあり方を示す新しい国家ヴィジョンである。

今後、人口は減少し、高齢化が進展していくので、もはや経済成長は望めない。
これからの日本の国家的テーマとしては、高齢者や社会的弱者に対する対応策が重要になる。高齢者や貧困層を特に念頭において、国民全体が不安なく生活していくだけの社会保障サービスを提供していくことが、最も重要な国家の使命として求められる。

成熟社会に入っていく国家の国民としても、それに合わせた理念と知恵とを持たなければならない。
国民のすべてに生活の安心を提供するためのしくみや制度を整備することは国家の最優先課題であるが、その前提条件として社会的弱者に対する福祉と助け合いを是とする国民的合意が必要である。

成熟化社会に向けて国民生活を安心なものにするために社会保障を手厚くしていくことが不可欠であるが、そのためには、国民負担率のアップは避けて通れない。
現在、日本の国民負担率(家計と企業が得ている所得のうち税や社会保険として国家に納める金額の割合)は40.6%であるが、これをフランス並の61.2%にすれば、75兆円の税収増を見込むことができる。
可能性のある財源としては、まず消費税の増税があり、つぎに金融資産課税、相続税の大幅増税がある。

無駄なダムや空港を作る公共事業では、もはや経済は成長しない。経済の成長によって国民の所得が上がり、豊かな生活が実現するという夢を見させるのではなく、豊かな者から取り上げて貧しい者へ分配することによって、より多くの国民に衣食住を提供し、安心した生活を送れるようにしようというのである。
たしかに、そうすれば、より多くの国民が安心して生活できるようになるであろう。
もはや、増税は必然なように見えるが、はたして国民の合意が得られ、明るい未来が開けるのであろうか。

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