2010年6月23日水曜日

高山博 歴史学 未来へのまなざし

中世シチリアからグローバル・ヒストリーへ

2002 株式会社山川出版社

1956年生まれ

著者は、中世シチリア王国を研究している。
そこでは、ノルマン人でキリスト教徒の王と、その周りを囲むイスラム教徒やギリシア人の学者の絵にあらわされるように、異なる文化が共存し繁栄していた。
歴史の研究をしていると、国家というのは、けっして安定したものではないことに気づく。
人類の歴史のなかでは、古代から、さまざまな国が興亡を繰り返してきた。つい最近でも、ソビエト連邦は崩壊し、10以上の共和国に分かれた。ユーゴスラビアやチェコも分裂した。いっぽうでは、複数の国が集まってヨーロッパ連合をつくる動きも見られる。

日本についても、グローバル化した世界の一部として認識し、位置づける必要がある。著者によれば、かっての閉じた日本社会はもはや存在しないことを認識しなければならない。今では、情報、人、モノ、金、そして仕事が自由に動き回り、私たちは、日本という枠のなかではなく、競争原理が支配するグローバル市場の動きに翻弄されている。
このような基本的な状況を認識せずに、閉じた国を前提とした従来型の政策を実行しようとすれば、思いどおりの効果をあげることができないばかりか、状況をますます悪化させ社会の不安を増大させるおそれがある。
著者は、「ゆとり教育」や「ワークシェアリング」を、そうした閉じた社会を前提とした政策や考え方であると言う。「ゆとり教育」は見直されたが、中国やシンガポールの若者との学力差は、将来の競争力の差につながるのではと懸念される。

自動車会社での「派遣切り」が、大きな社会的問題になっていた。
日本に最後まで留まっていた自動車産業にも海外に生産拠点を移そうという動きがみられる。このほうが、雇用に与える影響は、はるかに大きいにもかかわらず、あまり議論されていないようだ。

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