2010年3月20日土曜日

跡田直澄 散歩でわかる経済学

2008 株式会社ヴィレッジブックス

1954年生まれ

本書では、散歩好きの経済学者が、散歩して感じた「日本経済の今」が書かれている。
著者が、歩いて目に付くのは、日本経済や行政の問題点である。
都市の外見は、大勢の人が作るもので、人々の営みを規制する政治や行政の影響を受ける。
著者は、農村を歩いていても、都心を歩いていても、行政による過剰な規制が感じられてならない。

経済学者が散歩すると、いろいろなことに気がつく。
成城学園や田園調布のような高級住宅街を歩いていると、なぜ、JR沿線には、このような高級住宅地がないのかと考える。
その理由は、JRには不動産部門がなかったからである。
いっぽう、私鉄は、どこも不動産部門を抱えていて、鉄道部門と共に、高級イメージの住宅地を開発し、地価の高騰によって利益をあげていた。

浅草の浅草寺の裏手には、「社会福祉法人 浅草寺病院」がある。
なぜ、社会福祉法人なのか。社会福祉法人になると、宗教法人とおなじように、所得税や固定資産税が大幅に免除されるのである。
幼稚園は文部科学省の管轄、いっぽう保育園は社会福祉法人になるので、お寺で経営しているのは保育園が多いらしい。

六本木では、国立新美術館が2007年にオープンした。
立派な美術館であるが、全館が貸し会場で、収蔵品を持っていないという特徴がある。
著者は、この美術館は、内需拡大策として実施された「新公共事業」のひとつであったと考えている。アメリカとの内需拡大の約束を果たすため、国立大学の校舎が新しくなり、各種大学院大学が建設されたりしたが、この美術館もそのひとつであろうとのことである。

美術館のとなりには、政策研究大学院大学という超豪華な建物がある。
政策研究大学院大学とは、公務員が学ぶ、公務員のための大学である。
こういう大学も、文部科学省からの天下り官僚をはじめとして、公務員などの縁故採用職員で占められているらしい。

六本木散策を終えて、地下鉄大江戸線の六本木駅へ向かう。
地下鉄大江戸線は、地下40メートルを走っている。
2001年に施行された「大深度法」によって、公共工事では地下40メートル以深は補償の必要がなくなった。
東京のような都市では、知らないうちに地下鉄や道路、あるいは送水管が我が家の下を走る可能性がある。

著者は、散歩しながら、そのほかにも数多くの「行政による過剰な規制」を発見している。
日本では、内需拡大、したがって公共事業というパターンが繰り返された結果、いまのような都市や農村の外観がつくられた。個々の公共事業がムダかどうかは、詳しく調べなくては分からないことである。しかし、「コンクリートから人へ」などと言われるのも、国民の問題意識を反映したものであろう。

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