2010年2月12日金曜日

佐藤優 交渉術

2009 株式会社文芸春秋

1960年生まれ

著者は、外務省勤務中に背任などの容疑で逮捕された。
そんな著者が、はたして交渉術を語ることができるかであるが、著者自身も失敗の記録でもあると書いている。
外務省という役所は、交渉にかけては、プロの集団である。外務官僚は、交渉にかけてはプロであるから、橋本行政改革のときも、有力政治家をたくみに活用して、外務省を外政省に名称変更し大使の三分の一を民間出身とするという原案を一晩で覆したらしい。
外務官僚の交渉能力は見事なもので、田中外相、鈴木宗男、そして著者も外務省から追い出すことに成功した。
交渉術は、善でも悪でもなく、価値中立的なテクニックであり、物事の本質を見極める洞察力などよりも、道具的知性が必要とされる。
著者は、交渉力を身につけることは、誰にとっても必要なことだと言う。
交渉術のキーポイントのひとつは、相手を知ることである。
戦争中も、日本はソ連が攻めてくるとは考えもしなかったから、和平の仲介をソ連に頼んだ。ベルリンが陥落したとき、ソ連は日本の外交官をシベリア鉄道経由で送り届けてくれた。
小さなことを積み重ねて、相手を信頼させておき、最後に大きく裏切るというのも交渉術の一種らしい。それが、本人にとって有利であれば、そうなのかもしれない。だから、交渉術がうまくなったからといって、人間としての幸せがつかめるというわけではない。
いったん交渉の席についてしまえば、譲歩を余儀なくされ、こちら側の損になるのがわかっていることがある。こういう場合は、はじめから交渉しないのも交渉術の一種である。
とにかく、交渉というのは、やっかいなもので、なるべくしないですませたくても、人がいる以上、交渉はつきまとってくる。
交渉とは、関係者全員が、いろいろな役割をもち、しかもその役割がひんぱんに変わるという「不思議な劇場」である。
交渉においては、絶対に勝利する確実な技法などはない。
そのため、政治や外交の世界の裏では、酒、女、金、地位などにたいする人間の欲望につけこんで、交渉を自分に有利に展開しようとする戦いが繰り広げられている。
じっさいに、著者はいろいろな経験をしたが、交渉術の難しさは、その通りに行動しても、いつでも成功するとは限らないという複雑なところにある。

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