2009年10月10日土曜日

吉見俊哉 ポスト戦後社会

シリーズ日本近現代史⑨

2009 岩波新書

1957年生まれ

「バブルとその後の長期不況、深まる政治不信、そして高まる社会不安。列島が酔いしれた高度成長の夢のあと、何が待ち受けていたのか。崩れゆく冷戦構造の中で、この国は次第に周回遅れのランナーとなっていったのではないか。60年代半ばから現在まで、政治・経済・社会・家族…すべてが変容し崩壊していく過程をたどる。」(背表紙より)

著者によれば、1970年代初頭までの戦後社会を動かしていた最大のモメントは経済成長であり、70年代以降の「ポスト戦後社会」を動かしたのは通貨の変動相場制への移行を契機としたグローバリゼイションである。急激な円高のため、輸出により発展してきた企業は軒並み苦境に陥り、打開策として海外直接投資への動きを強めていった。90年代以降、日本企業は雪崩をうって中国などの海外に生産拠点を移していく。
その結果、国内の産業空洞化が進み、多くの中小・零細の工場が存立基盤を失い、倒産や閉鎖に追い込まれている。
こうして今日、日本はグローバル資本の一部としての「JAPAN]と、崩壊する地場産業や農村のなかでもがく「国土」という二つの異質な存在に分裂しつつある。
著者は、90年代以降の日本は少なくとも四つの局面で従来の境界を越えて変容していると言う。
1.産業の主要な部分が海外に移転していった。
2.国内に残った産業部門では、大幅に外国人労働力が導入された。
3.海外旅行が盛んになり、海外で働く日本人が増えた。
4.アジアの国々で日本の大衆文化が熱心に消費されるようになった。
このような変化は、現在も進行中であり、このまま進めば「日本」という歴史的主体が、分裂・崩壊していく。「ポスト戦後」の時代は、著者によれば過去からの連続性としての『日本史』がもはや不可能になる時代である。

私は、このような時代を誰の目にもわかりやすく表わしているのは相撲の世界であろうと感じている。大相撲は連日熱のこもった取組で相撲ファンを沸かせているが、主な力士はモンゴルなどの外国人力士である。もし彼ら外国人力士がいなければ、相撲は、かなりつまらないものになってしまうだろう。同じように、日本の野球選手がアメリカで活躍しているのだから、グローバリゼイションの流れは、もはや後戻りできなくなりつつあるらしい。

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