2009年8月21日金曜日

川本三郎 我もまた渚を枕

東京近郊ひとり旅
2004 株式会社晶文社

1944年、東京生まれ。映画・文学・都市を中心に評論活動を続ける。

「背表紙」より
「消えゆく下町を見つめてきた著者が、変化の激しい東京を一歩離れ、『旅』に出た」

「あとがき」より
「雑誌『東京人』に『東京近郊泊まり歩き』と題して連載したものである。千葉県、埼玉県、神奈川県と首都圏の三県にある町に出かけ、気ままに歩き、夕暮れ時に、居酒屋に入り、ビールを飲む。そんな無為な小旅行を約1年間、楽しんだ。・・・知らない町を歩いていて、いちばん心ときめくのは、昭和二、三十年代の古い町並みに出会ったとき。表通りから、一本、路地に入るとそこに銭湯があったり、豆腐屋があったりする。昭和十九年に生まれ、昭和二、三十年代のまだ日本が貧しかった頃に育った人間としては、そんな路地や横丁に出会うと無性に懐かしくなる。自分の町でもないのに、昔、住んだことがあるような町に思えてくる。町歩きとは、記憶のなかにしかないかつての幻の町を探し求める旅なのかもしれない」

三県別の内訳は、つぎのとおり。
千葉県:船橋、我孫子、市川、銚子、千葉
神奈川県:横浜鶴見、横浜本牧、小田原、川崎、横須賀、横浜(寿町・日ノ出町・黄金町)、藤沢・鵠沼、厚木・秦野、三崎
埼玉県:大宮、岩槻

こうして見ると、昔から人が住んでいた地域が多い。こうした町には、はなばなしさとは無縁の置き去られたような場所が今でも少し残っている。
日本では、古い建物を残して使うということをせず、壊して建て替えることが多い。都市計画法とか建築基準法によって、新しく建て替える時は防火建築でなくてはならないとか様々な行政上の規制もある。そのため、古い町並みが、すっかり変わってしまい、特徴のない建物やマンションが建ち並ぶ。残された古い建物も、やがては壊されてしまうと思うと懐かしさを覚えずにはいられない。

著者は、昔の小説や映画の舞台となった場所も探し、訪れている。私も、過去の記憶が印されているような古い町をあてもなく歩いてみたいという気持ちになることがある。

本書が書かれてからわずか5年ほどであるが、町の様子は日々変わっている。かって高齢者がひとりで住んでいたらしい空家も、ちらほら目につくようになった。
古い家は取り壊され、空いた土地は駐車場、建売住宅、アパート、マンションなどに変わっていく。

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