2009年8月13日木曜日

小松和彦 阿倍晴明 「闇」の伝承

2000 株式会社桜桃書房

1947年生まれ 文化人類学・民俗学者

阿倍晴明は平安中期に活躍した陰陽師であると言われているが、正式の歴史にはほどんど書かれていない。陰陽道とは、古代中国に起こった陰陽五行説を中心とする思想および技術が日本独自の展開をみせた呪術を中心とした宗教である。平安時代の貴族たちは陰陽道を深く信仰し、それに縛られた日常生活を送っていた。

陰陽道は近代に入ってからはほとんど忘れられていたが、最近になって荒俣宏の「帝都物語」や夢枕獏の「陰陽師」そして岡野玲子のコミック「陰陽師」などによって若い人たちを中心に阿倍晴明への関心が広まっていった。陰陽道は現代人が知らないだけで、長い歴史を持ち、日本文化の形成に大きな役割を果たしてきた。
著者は阿倍晴明ブームの仕掛け人の一人であると目されていて、妖怪、異人、異界といった言葉で表わされる「闇」の文化を研究している。「闇」の文化を研究することによって、昔からの日本人の思考原理と行動原理を明らかにできると考えている。妖怪に対する一般の関心も、水木しげるの妖怪まんがや宮崎駿のアニメなどの影響もあって高まっている。

著者は、高知県の物部村に伝えられてきた民間信仰「いざなぎ流」の研究もしており、「いざなぎ流」が陰陽道の伝統とつながっていることを発見した。「いざなぎ流」は今や後継者もなく消滅寸前の状態にある。陰陽道や阿倍晴明は一種のブームとなってしまったが、著者は、さらなる「闇」の伝承が人知れず眠っていると思っている。
ほとんど絶滅寸前の民俗伝承を調査することはいまや困難をきわめる作業であるが、著者の探究に、おおいに期待したい。

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