2009年7月31日金曜日

榊原英資 メルトダウン

21世紀型「金融恐慌」の深層
2009.2 朝日新聞出版

1942年生まれ 元大蔵省財務官 「ミスター円」と呼ばれた。

著者は今回の金融危機による不況は、2~3年以上は続くと予想し、ニューヨークダウ8000ドル割れ、日経平均7000円割れを予想する。じっさい、3月には、それぞれ本年最安値をつけている。

著者は、元大蔵省で実務を指揮していたので、実務経験に基づいたた記述が興味深い。また、ジョージ・ソロスのような人物とも直接交流がある。ジョージ・ソロスは投機的なヘッジファンドの大物として名高いが、グローバル資本主義の結末について悲観的である。グローバル資本主義は本源的に不安定なもので、公的セクターの制御装置を早く整備しないと、破局は避けられないと論じていた。
ところで、このようなグローバル資本主義をささえていたのは、「市場原理主義」だという。さらに「市場原理主義」を理論的に支えているのが「新古典派経済学」という構図になる。「市場原理主義」という言葉は、市場は間違わないという一種のイデオロギーとして悪い意味で使われている。私は、新古典派経済学はもともと現実とは切り離された理論的な世界を想定しているので、そこまで新古典派経済学のせいだとは思わず、むしろ「規制」を嫌うグループにうまく利用されてきたのだと思う。

p142
「IMF,OECD両機関とも2009年の7~9月前後からの景気回復を予測していますが、これは極めて楽観的な見通しだということができるでしょう。公的機関が悲観的予測を出す場合、不確実性が高いかなり先の見通しは、一応『回復』と仮置きするのが通常の慣行だからです」
(公的機関の予想は楽観的な方に傾きがちになるらしい)

「三つのパラダイム・シフト」では、大きな混乱のあとには必ずシステムやものの考え方の大きな転換(いわゆるパラダイム・シフト)があるという。
「まず第一のパラダイム・シフトは、1990年代から加速してきた市場原理主義が崩壊し、公的セクターの役割が大きくなっていくことです。・・・
第二は、第一点と関連しているのですが、アメリカのヘゲモニーに揺らぎがでてきているという点です。・・・
第三は、第二の点とも関連しますが、『多様化』が世界的に進んでいくということでしょう」

「『心理効果』が景気を浮揚させる」では、金融危機・世界同時不況にどう立ち向かっていくかについて
「・・・今、打つべき政策は減税や公共事業といったオーソドックスなマクロ政策ではなく、人々の予測や考え方に直接働きかける政策でなくてはならないということが理解できるはずです。・・・人々の将来に対する不安や、金融危機、世界同時不況のなかで委縮しているマインドをどう開かせるのか、そうしたことが政策の中心課題ということなのでしょう。・・・」

著者によると、日本がとるべき政策は「本物の構造改革」による地方分権によって地方経済の活性化をはかり内需を拡大していくことであるという。
行政の根本的な改革ということになると、政権交代でもないかぎり難しそうであるが、現在の閉塞感を打開するためには、それもまた著者の選択肢のひとつである。

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