2009年7月20日月曜日

武者陵司 新帝国主義論

この繁栄はいつまで続くか
2007.4 東洋経済新報社

著者は本書執筆当時、ドイツ証券副会長

本書執筆時(2007年4月)、「筆者の結論は、世界繁栄の二つのキーワードである『辺境である途上国での生産性の飛躍的上昇』と、『労働力の不等価交換による先進国での超過利潤の発生』は相当期間持続するので、当面の世界経済と株式市場は明るいというものである」という。

その後2年間のあいだに起こった事実は著者の予想に反し、アメリカのサブプライム・ローン問題に端を発して世界的金融危機が起こり株式市場は暴落した。理由はともかく結果は大きくはずれてしまったわけである。
今から振り返れば、著者の考え方のどこがどう違ってしまったのかより明らかになりそうである。

著者は「はじめに」で次のように述べる。
「前例のない世界経済の繁栄が続いている。・・・われわれの生活やビジネスは一国だけでは全く成り立たず、世界経済は完全に一つという時代になった。そのもとで中国・インドなどでの超低賃金労働力が極めて潤沢・安価・即時に利用可能となっている。・・・このような極端な労働賃金格差が長期にわたって埋められることなく続いている。安価な労働力を活用できれば著しい超過利潤が得られる。この超過利潤が多国籍企業を通じて先進国経済と金融市場を潤している」このような世界経済の繁栄は「人類の歴史から見れば遠くない将来、中国などの生活水準が高まり辺境が消滅すれば、必ず終焉を迎える」、が数年は続くと著者は予想している。

グローバリゼーションが進行し、世界全体が好況を享受した。しかも、その期間が長く続いた。著者は、このような新しい現実を「地球帝国」が成立したと言う。

グローバリゼーションの流れは今もとどまることがない。著者のいう「地球帝国」も、世界中の国々が相互依存の関係にあるという意味では間違っていない。

ただ、著者のいう「地球帝国」の繁栄が「辺境」がなくなるまでの間、当分続くという点に誤りがあった。世界中の国が好況であるという状況は、実は、かなり脆いものであったことが証明されてしまった。

資本主義経済が発生してからというもの、経済は常に景気循環の波に揉まれてきた。全体を計画したり、統制したりする機関がないのが資本主義の特徴である以上、景気循環は避けられない。今回の金融危機も規制がされてこなかった新しい金融商品に関わる破綻が危機をいっそう大きくした。

やや長期で見れば著者の分析した「地球帝国」の構造は今も変わっていない。そうだとすれば、世界を揺るがした金融危機と株価の暴落ではあったが、いずれ近い将来、元に戻ることは十分可能であろう。

後から考えれば、好況があまり長く続いたため、不況が起こらないという理論に変更してしまったところが著者の失敗であった。

市場分析の専門家である著者であるが、長らく株価について弱気の見方をしていたあとに本書によって強気に転じたのである。
もっとも、アメリカの投資銀行が姿を消すほどの事態を予想したものは、ほどんど居なかったわけだし、たとえ居てもその時は相手にされなかったであろう。わずか2年前のことである。

0 件のコメント:

コメントを投稿